よもやよもやのスターンデッキの腐り
今まで補修していた箇所は予め聞いていたか、意味ありげなガムテープが貼ってあったりなど、言わば予見性があった。ところが、フォアデッキとサイドデッキ,ドッグハウス周りが片付き、やっと新しい母港への回航が見えてきたと思っていたところが、一見何も問題が無いように見えていたスターンデッキの腐りが発覚した。
しかし思い起こせば少し予見は有るにはあった。それはスターンの塗装をしている時、バックステイのチェーンプレート取り付けボルトの頭が外側から樹脂で埋めてあるのだが、その樹脂の隙間から水滴が何度拭っても染み出していた。思えば、ハルの木部と表面のグラスファイバーの間に、どこからか水が染み込んでいて、それが湧き水の様に染み出していたわけだ。
ハルと船底の塗装も完了し船名も入り、スルハルの点検とボールバルブ,ヘッドの交換も終わったので、やっと船を水面に降ろす事になったのだが、作業のために陸置きしている間、船台に上がった船へ上がる為にスターンに梯子を掛けて出入りしており、その間、何となくスターンデッキを踏むと心なしか踏みごごちが柔らかい感じなのが気になっていたので、船を海面に降ろし、少し沖に出てエンジンの調子やスターンチューブのグランドパッキン周りの水漏れの調子などを確認したのち、Yボートサービスの桟橋へ船をつけ、Y氏と共にスターンデッキ回りの点検を行った。
本艇には、スターンに真鍮性のフラグポールベースが取り付けられているのだが、これを押してみると何だかグラグラしているので、思い切って少し力を入れると、なんと無残にも捥げてしまった。
スターンパルピットの取り付け座はチーク材で作られていたが、ボルトを外したら粉々に。
せっかく修理完了したと思っていたのに、パルピットもライフラインも外して、またこんな姿に逆戻りだ。
湿気がたまれば木は腐る
そもそも何故スターンデッキがこんなに腐ってしまったのか?
ヨットのデッキは、波をかぶった時の海水を排水するために、大体に於いてバウからスターンに掛けて下り勾配になっている。と言うのも、バウは当然のことながら波を切る必要があるので細く尖っており、その為浮力の確保とバウが波に突っ込んで沈まない様にフリーボードは高い。一方のスターンはフラットな形状で浮力があるので、比較的フリーボードを高く取る必要が無いので、その様な設計になるわけだ。
と、言う訳で、バウからスターンへ水は流れてくる。これが海水のみなら良いのだが、停泊中に雨が降れば、当然真水の雨水がスターンに流れてくるため、その水は舷側から排水せねばならないので、ガンネルには排水孔が設けられているのだが。
しかし本艇の場合、上の写真を見て欲しいが、左舷側スターンに立派なアンカーローラーが取り付けられている。どうやらこの艇を建造したときに、オーナーのこだわり追加されたもののようだ。このアンカーローラーはチーク材の立派な台を介してデッキに取り付けられているのだが、そのため左舷側最後部の排水孔は、このアンカーローラーの台座の下に隠れてしまうこととなり、一応、台座の下に排水孔は掘ってあるのだが、細く長い孔はメンテナンスを少し怠ると何か異物が詰まり、役に立たなくなることは容易に想像できる。実際、主人が手に入れた時点でも孔は詰まっており、ワイヤーを通すと土埃の固まったものが出てきた。
結果、スターンデッキの最後端部に水が溜まりがちになって、腐ってしまったものと思われるが、今回不具合部を切除してみると以前にもこの辺りを修理した様な痕跡が残っていたので、この艇の持病であったのだろう。
作業を始めた当初は、スターンハッチから後ろの部分だけが腐っていると考えていたのだが、そんな甘いものでは無く、スターン付近のデッキ骨材とデッキを剥いで貼り直さなくてはならなほどの大工事となってしまった。
チェーンプレートを取り付けている構造材の周辺は、デッキ取り付けの為の骨材がなくなってしまった。
骨材は新たに作り直して取り付けられた。
その上に分厚いデッキの合板を、曲げながら固定。センターが高く両舷側へ下がっている。
ビット周辺も過去に補修していた様だ。今回は痛んでいた部分を除去して板を貼り直している。
板の上にはグラスマットを貼り付け防水。
さらにエポキシ樹脂を全面に塗布して、デッキ補修完了。
ガンネルから続くスターン部のガーニッシュも下の写真の様にボロボロに腐っていたが、何とかジグの型を取り、新作して取り付けることが出来た。このくらい大きなサイズのチーク材はなかなか直ぐには手に入らないので、ラッキーだった。
スターンデッキ修復作業完了。バックステーのチェーンプレートとスターンパルピットの取り付けとガンネルの隙が少なかったので、全体に20mm前に出すことで隙を確保する。
バックステーチェーンプレートは取り付け座を変えて前方へ移動。
スラーンパルピットを20mm前方に移動したので、スターン側だけで無く、両舷側の取り付け部もガンネルとクリアランスを取ることができた。
やっと大工事が終了したが、スターンハッチの水切り溝からロッカー内部へ漏れが有ることが判明したので、水切り溝にもエポキシ樹脂を流し込み防水を施した。