ちどり庵主人の木造ヨットライフ

約10年間、ヨットから遠ざかっていた筆者が復帰するににあたり、憧れだった木造艇を手に入れ再開したヨットライフの顛末を綴る。

ちどり庵こと、Van de Stadt 31 (ヴァン・デ・シュタット31)

ちどり庵ことVan de Stadt 31は、オランダのE.G.ヴァン・デ・シュタット造船所(設計事務所)設計の9.4mスループ

によると、設計番号221のKnuppel(コウモリ)という艇と同一デザインと思われる。

ヴァン・デ・シュタット31諸元

・全長(LOA):9.40m

水線長(LWL):6.80m

・船幅(BEAM):2.75m

・喫水(DRAFT):1.65m

排水量:2.60t *(デザインリストには記載なし)

・構造:Cold moulded ply

・設計年:1969年

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日本で最初に建造されたヴァン・デ・シュタット31 毘盧舎那(ビルシャナ)

舵誌1971年3月号の記事に名古屋のツボ井ヨット建造の同艇と同じ号のツボ井ヨットの広告に同艇が登場していることから、おそらく日本で最初に建造された艇だと推測される。

コールドモールド・プライウッドという構造は木造工法の一つで、細長く切った薄い木を樹脂でフレームに貼り付けて積層してゆく丁度モノコックの様な構造で1969年当時では(おそらく)最新の工法であった。

記事によると、この艇のコールドモールド・プライウッド工法は2.5mmの薄板にのりをつけて貼り付け、釘で仮止めし、固まると釘を抜いてまた板を貼り付ける作業を五回繰り返して重ねてゆくと云うもので、大変手間の掛かる工法ということだ。

この工法のおかげで軽く堅牢なハルを造る事ができ、キャビン内のバルクヘッドも基本的に船体からの外力を受ける構造にはなっておらず、フレームもリギンからの応力を受ける為のようだ。

ヴァン・デ・シュタット31の特徴

舵誌の記事にもあるが、31ftの全長に対して排水量は3tを切る2.6tと、現代のヨットと比較しても随分軽い事が特徴だ。実際キャビンの床を剥いで見るとびっくりするほど浅い事がわかる。その結果、このサイズとしては小さめのセールエリアながらクローズホールドで7〜8m/secの風で軽く6ノットを越し、フリーでは12〜13ノットのプレーニングが体験できるという。

浅くフリーボードの低い船体の欠点は、キャビンスペースが小さくなる事で、キャビンは独特の丸いドッグハウスを持つがヘッドルームが低く、コンパニオンウェイを降りた所の一番高いところでも1700mm無いのではないか?セティバースのところは屈まないといけないし、船幅は2.75mと狭いので、丁度23ftクラスの艇を縦に伸ばした様な感じといえば分かりやすい。

一応小型のギャレーとチャートテーブルはあるが、メインサロンはセティバースのみで現在(元々?)テーブルは無い。フォクスルはロッカーとマリントイレのみでバースは無し。両舷にパイプのクォーターバースはあるが、右舷側は入口がとても狭く実用には使えそうに無い。なにより、物を置くスペースがとても少なく、フォクスルの他にはスターンのロープロッカーが有る他は、セティバースの背もたれの外側とバースの下にも物は入るが、先に述べたようにボトムが浅いので、ここには嵩の有るものは入らない。先のオーナーがそうしていた様に、使えない右舷側クォーターバースがやはり物置になる様だ。

かなりの快速艇だが、その反面優雅にキャビンで寛ぐと云う用途には向かない艇だと言える。まあ、そんなにロングクルージングに出る事も無いだろうし、行動エリアの瀬戸内海沿岸には旅館や民宿が多く有るので、クルージングに出ても陸で宿泊すれば何も問題はない。

ちどり庵のこれまでの経歴

この艇は進水して以来、ちどり庵主人で3人目のオーナーになるそうだ。

この艇は先の毘盧舎那とは異なり、香川県の小豆島にある岡崎造船で1972年2月20日に、茅渟(チヌ)と命名され進水したと同年の舵誌4月号に紹介されており、恐らく西日本での初号艇では無いかと推測される。日本での初号艇 毘盧舎那に遅れること凡そ一年後の事だ。

その後姫路の前オーナーが長年所有され、昨年末にちどり庵主人が引き継がせて頂きことになったが、長年この海域で暮らしてきたことになる。同型艇が、瀬戸内海および東海、関東方面にも残存していると云う話もあり、機会があればオーナーを訪ねてみたいと思う。